Publication date: 1999/07/10
明治30年、自由民権運動に挫折し、詩人となった青年真拆は、「神経衰弱」を癒やす旅の途上で、一匹の美しい蝶に誘われ、奈良県十津川村の山中に迷い込む。毒蛇に噛まれ、九死に一生を得た彼は、夢と現との狭間で、運命の女性との邂逅に心奪われる。―― 月を象徴とする神話的な物語は、全平野作品中、最も耽美的。バイロン的ロマン主義と縁起との相克を、「情熱」的に生きようとする青年の姿が、典雅な文体で夢幻的に描かれている。